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◇◆◇◆有閑倶楽部を妄想で語ろう23◇◆◇◆

1 :名無し草:04/11/28 16:33:50
ここは一条ゆかり先生の「有閑倶楽部」が好きな人のためのスレッドです。
 前スレ http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1090846366/

お約束
 ■sage推奨 〜メール欄に半角文字で「sage」と入力〜
 ■妄想意欲に水を差すような発言は控えましょう
*作品への感想は大歓迎です。作家さんたちの原動力になり、スレも華やぎます。

関連サイト、お約束詳細などは>>2-6の辺りにありますので、ご覧ください。
特に初心者さんは熟読のこと!

2 :名無し草:04/11/28 16:34:44
◆関連スレ・関連サイト

「まゆこ」 http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1028904997/
 意見交換や議論をする時に使うスレ。テンプレ相談などはこちらで。

「有閑倶楽部 妄想同好会」 http://houka5.com/yuukan/
 ここで出た話が、ネタ別にまとまっているところ。過去スレのログもあり。
 *本スレで「嵐さんのところ」などと言う時はココを指す(管理人が嵐さん)

「妄想同好会BBS」 http://jbbs.livedoor.jp/movie/1322/
 上記サイトの専用BBS。本スレに作品をUPしにくい時のUP用のスレあり。
 *本スレで「したらば」と言う時はココを指す

「有閑倶楽部アンケート スレッド」
 http://jbbs.livedoor.jp/movie/bbs/read.cgi?BBS=1322&KEY=1077556851
 上記BBS内のスレッド。ゲストブック代わりにドゾー。
     
「■ □ ■ 妄想同好会 絵板 ■ □ ■」
 http://www8.oekakibbs.com/bbs/loveyuukan/oekakibbs.cgi
 上記サイトの専用絵板。イラストなどがUP可能。

3 :名無し草:04/11/28 16:35:25

◆作品UPについてのお約束詳細(よく読んだ上で参加のこと!)

<原作者及び出版元とは全く関係ありません>

・初めから判っている場合は、初回UP時に長編/短編の区分を書いてください。

・名前欄には「題名」「通しNo.」「カップリング(ネタばれになる場合を除く)」を。

・性的内容を含むものは「18禁」又は「R」と明記してください。

・連載物は、2回目以降、最初のレスに「>○○(全て半角文字)」という形で
 前作へのリンクを貼ってください。

・リレー小説で次の人に連載をバトンタッチしたい場合は、その旨明記を。

・作品UPする時は、直前に更新ボタンを押して、他の作品がUP中でないか
 確かめましょう。重なってしまった場合は、先の書き込みを優先で。

・作品の大量UPは大歓迎です!

4 :名無し草:04/11/28 16:36:09

◆その他のお約束詳細

・萌えないカップリング話やキャラ話であっても、 妄想意欲に水を差す発言は
 控えましょう。議論もNG(必要な議論なら、早めに「まゆこスレ」へ誘導)。

・作家さんが他の作品の感想を書く時は、名無しの人たちも参加しやすいように、
 なるべく名無し(作家であることが分からないような書き方)でお願いします。

・あとは常識的マナーの範囲で、萌え話・小ネタ発表・雑談など自由です。

・950を踏んだ人は新スレを立ててください。
 ただし、その前に容量が500KBを越えると投稿できなくなるため、
 この場合は450KBを越えたあたりから準備をし、485KB位で新スレを。
 他スレの迷惑にならないよう、新スレの1は10行以内でお願いします。

5 :名無し草:04/11/28 16:36:55

◆初心者さんへ

○2ちゃんねるには独特のルール・用語があるので、予習してください。
 「2ちゃんねる用語解説」http://www.skipup.com/~niwatori/yougo/

○もっと詳しく知りたい時
 「2典Plus」http://www.media-k.co.jp/jiten/
 「2ちゃんねるガイド」http://www.2ch.net/guide/faq.html

○荒らし・煽りについて
・「レスせずスルー」が鉄則です。指差し確認(*)も無しでお願いします。
 *「△△はアオラーだからスルーしましょう」などの確認レスをつけること

・荒らし・アオラーは常に誰かの反応を待っています。
 反撃は最も喜びますので、やらないようにしてください。
 また、放置されると、煽りや自作自演でレスを誘い出す可能性があります。
 これらに乗せられてレスしたら、「その時点であなたの負け」です。

・どうしてもスルーできそうにない時は、このスレでコソーリ呟きましょう。
 「■才殳げまιょぅ■タロ無し草@灘民【4】」(通称:ちゃぶ台スレ)
 http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1096611291/
 (注)有閑スレのことだとバレないように呟いてください。このスレで他人の
    レスに絡んだり、このスレのログを他スレに転載することは厳禁です。

○誘い受けについて
・有閑スレでは、同情をひくことを期待しているように見えるレスのことを
 誘い受けレスとして嫌う傾向にありますので、ご注意を。
 語源など http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1028904997/172

6 :名無し草:04/11/28 16:37:39

◆「SSスレッドのガイドライン」の有閑スレバージョン

<作家さんと読者の良い関係を築く為の、読者サイドの鉄則>
・作家さんが現れたら、まずはとりあえず誉める。どこが良かったとかの
 感想も付け加えてみよう。
・上手くいけば作家さんは次回も気分良くウプ、住人も作品が読めて双方ハッピー。
・それを見て自分も、と思う新米作家さんが現れたら、スレ繁栄の良循環。
・投稿がしばらく途絶えた時は、妄想雑談などをして気長に保守。
・住民同士の争いは作家さんの意欲を減退させるので、マターリを大切に。

<これから作家(職人)になろうと思う人達へ>
・まずは過去ログをチェック、現行スレを一通り読んでおくのは基本中の基本。
・最低限、スレ冒頭の「作品UPについてのお約束詳細」は押さえておこう。
・下手に慣れ合いを求めず、ある程度のネタを用意してからウプしてみよう。
・感想レスが無いと継続意欲が沸かないかもしれないが、宣伝や構って臭を
 嫌う人も多いのであくまでも控え目に。
・作家なら作品で勝負。言い訳や言い逃れを書く暇があれば、自分の腕を磨こう。
・扇りはあまり気にしない。ただし自分の振る舞いに無頓着になるのは厳禁。
 レスする時は一語一句まで気を配ろう。
・あくまでも謙虚に。叩かれ難いし、叩かれた時の擁護も多くなる。
・煽られても、興奮してレスしたり自演したりwする前に、お茶でも飲んで頭を
 冷やしてスレを読み返してみよう。
 扇りだと思っていたのが、実は粗く書かれた感想だったりするかもしれない。
・そして自分の過ちだと思ったら、素直に謝ろう。それで何を損する事がある?
 目指すのは神職人・神スレであって、議論厨・糞スレでは無いのだろう?

7 :まゆこスレ701:04/11/28 16:49:46
ちょっと早いですが、新スレ立てました。
SS(連載/短編)・感想・小ネタ等等、このスレもマターリ盛り上がりますように。

8 :名無し草:04/11/28 23:41:40
>1

乙です!
最近さびしい限りの本スレですが、匿名スレの利点を生かして
また投稿が増えるのを願ってます。

作家さん達、お待ちしております。

9 :名無し草:04/11/29 00:53:35
スレ立てお疲れさまです!

作家様方がまた降臨するのを、マターリお待ちしましょう。
きっとクリスマスネタがそろそろ…w

10 :名無し草:04/11/29 01:10:48
前スレ728さんのネタに触発されて冬物語書いてみました。
魅→悠のほのぼのです。

3スレお借りします。

11 :BE WITH YOU (1):04/11/29 01:13:23
ぱちんぱちんと耳慣れたリズムを刻んで碁石が鳴っている。
美童がかちゃかちゃと忙しなくメールを打ち、
気のなさそうに可憐が雑誌をめくる音がぱらぱら響く。

夏からこっち、どこまでも続く平和な日々。
閑をもてあましてしょうがない。

目の前に置かれたマグカップからゆらゆら湯気が立ち上る。
頬杖をついて、ぼんやりと白いそれを見つめた。
いや、正確にはその向こうを。

いつもなら閑だ閑だ、とわめく悠理もまた、頬杖をついて窓の外へ視線を向けていた。
何をそんなに眺めてるんだろう。
視線を追うと、吸い込まれそうに青い空がどこまでも広がっている。
柔らかな白い日差し。
穏やかな青のグラデーション。
同じ風景を目に映してしまうと、今度は違うことが気になった。

悠理は、何を考えてるんだろう。

12 :BE WITH YOU (2):04/11/29 01:15:15
「きゃ、いっけなーい。午後体育だったんだわ。急いで着替えなきゃ」
可憐の慌てた声に、いきなり現実に引き戻された。
授業開始5分前の予鈴に、いっせいに椅子が鳴る。
「命拾いしましたね、野梨子」
「あら、清四郎こそ投了をまぬがれてほっとしてるんじゃありません?」
足早に俺の後ろを通り過ぎながら、清四郎と野梨子が相変わらずのやりとりを繰り返す。
「魅録、コーヒー冷めちゃってるよ。何をそんなに考え込んでたわけ?」
肩を叩いてからかってくる美童に、「俺は猫舌なんだよ」と返事をしながら立ち上がった。
軽く伸びをしながらみんなの背中を見送って、悠理を振り返る。

「次は音楽だから俺たちも教室移動だぞ、悠理」
「ん」
聞いているのかいないのか、悠理はいっこうに動かない。
痺れを切らして、今度は強めに呼んだ。
「こら、悠理」
「あたい、自習で忙しいんだ」
ぺろっと舌を出して悠理が髪をかきあげた。
思いがけない仕草に、わずかに心臓が跳ねる。
隠れていた耳に小さなイヤフォンが見えた。
「魅録も、一緒にベンキョウする?」
クラシックじゃなくてロックだけどーー、悪戯っぽい笑顔とともに
片方のイヤフォンが差し出される。
俺は破顔して受け取った。
細いコードが俺たちを繋ぐ。
悠理を満たしていた音楽が、溢れんばかりに流れ込んできた。

13 :BE WITH YOU (3):04/11/29 01:16:22
授業開始を知らせる鐘が鳴った。
椅子の背にもたれながら、すっかりぬるくなったコーヒーに口をつける。
「猫舌なんて、嘘ばっかり」
「嘘じゃねーよ。今日は、熱いのダメなんだ」
テーブルの下で悠理が足を蹴ってきた。
苦いだけの液体を飲み干しながら、俺は睨むフリをする。
「じゃあ、これもダメだな。レッチリだもん」
眉をしかめて悠理がコードを引っ張る。
片手でイヤフォンを押さえながら慌てて取り繕った。
「俺、辛いのは好きなんだ」
「だから?」
「だから、半々でちょうどいいんだよ」
「ーーーーーーそっか」
悠理の顔から笑みが零れた。
俺は思わず目を細める。
夏の空を恋しがっていたに違いない悠理には悪いが、こんな風に過ごせるなら冬も悪くない、
なんて思ってしまう。


春が来ても、いつまでも、同じ時間を共有できたらいいよな。


14 :BE WITH YOU :04/11/29 01:18:48
オワリを入れるの忘れてました。
しかも、3スレじゃなくて3レスだし・・・。

ども、失礼しました。

15 :名無し草:04/11/29 01:55:05
>BE WITH YOU
小ネタを振った者です。
こういうほのぼのしたのが読みたかったので、とっても嬉しい!
それぞれの昼休みの過ごし方の描写に、頬が緩んでしまいました。
温かな湯気を感じるような、冬の一日ですね。
甘過ぎない、魅×悠のかけあいがよかったです。

16 :名無し草:04/11/29 11:55:09
>BE WITH YOU
新スレ→早速の作家様ご降臨、嬉しいです!
陽だまりみたいに、ほのぼのと温かいやり取り&空気感が
とってもイイですね。
熱すぎず辛すぎず(?)。何かこの二人に合ってるなぁと思いました(^^)
ステキなお話&ほんのり幸せ、ありがとうございました。

17 :秋の手触り[126]:04/11/30 00:00:22
長期に連載がストップしてすみません。

>>http://houka5.com/yuukan/long/l-29-2-06.html

「あー、何してんだよっ」
 美童の声で我にかえった魅録は、自分のとった行動の無様さに内心で舌打ちし
つつ、足の長いカーペットに音もなく転がったグラスを拾う。
「早く拭かなくては染みになりますわ」
 野梨子が素早くハンカチでカーペットを拭く。幸い、落としたグラスにはさほど中身
が残っていなかった。
 悠理の方は、剣菱精機社内で自分にセクハラをかけてきた八代を警戒し、微妙に
距離をとっている。
 八代はそんな魅録と悠理にニヤニヤと人の悪い笑みを浮かべ、勧められもしない
のに図々しくソファに座った。
「そんなに動揺しなくたっていいのに」
 どの口がそんな戯れ言を言うのだ。
 魅録はなんでこんな奇怪な状況になっているのか頭を悩ませたが、なんとか気を
取り直して、とりあえずそう聞いた。
「八代さん、なんであなたがここに?」
「野梨子と契約したからさ」
「契約……?」
 言葉の内容そのものだけでなく、彼が親しげに野梨子を呼び捨てすることを怪訝
に思い、魅録は首をかしげる。答えを求めるように野梨子の方を向くと、彼女は甚だ
不本意そうな表情を浮かべて説明しはじめた。

「……マジで?」

 説明が終わったと、呆れ返った魅録はとりあえずそうとだけ言った。
「本気だよ僕は」
 八代が無意味に胸を張り、堂々と言った。カタカナの「ろ」のつく四文字が魅録の
脳裏に浮かんだが、とりあえずは沈黙を守った。なんだか無意味に力が抜けてきた
のは気のせいだろうか。

18 :秋の手触り[127]:04/11/30 00:01:31
「いい男じゃない」
 ひそひそと可憐が野梨子に耳打ちする。いい男なのは間違いなかった。だが
まともな男とは言い難い。よっぽど野梨子は可憐に反論してやろうと思ったが、
そんな男とデートする羽目になった自分が余計に虚しくなるので、口を噤んだ。
「いい大人が女子高生のケツ追っかけて恥ずかしくねーのか」
 言いにくいことをずばっと口にしたのは悠理である。彼の傍迷惑な正確を、野梨子
ほどではないが彼女も知っている。剣菱精機の社屋で彼をノックアウトしたのは
たった二日前である。こんなものに付きまとわれて、野梨子も大変だなぁと悠理は
いたく同情した。
「確かにね。僕でもさすがにここまでベタなセマリ方は出来ないなぁ」
 同じ気障男である美童だが、彼は彼なりに口説き方には美学があるらしい。自分
の感情に素直な八代とは少しタイプが違う。
「もちろんそれだけじゃないよ。前から僕は、自分がどちらの派閥につくべきか調べ
ていて、気持ちはほとんど専務派に傾いていた。今回のことは、よく検討した末の
結論だよ。だから、野梨子のことがなくても専務派に寝返っただろう。第一僕は
巻き込まれただけで、自分の意思で反専務に属していたわけじゃあないんだ」
 一同の微妙な空気に八代は弁解するが、説得力があまり無かった。
 ふと殺気に気づいて魅録が横目で見ると、清四郎が微笑んでいた。
 魅録の視線に気づいて、一言。
「まあ、心強い味方であることは確かですね」
 眼が笑っていない。
(こえーよ、お前)
 ははは、と空笑いしたところでタイミング良く、玄関からノックがした。
 出て行こうとした野梨子を制して、少し悪戯っぽい表情をした八代が「僕が出るよ」
と立ち上がる。思わず顔を見合わせた魅録と悠理だったが、玄関先でばさばさと物を
落とす音がしたのを聞いて、思わず笑い転げた。

19 :秋の手触り[128]:04/11/30 00:02:48


 明らかに反専務派に属していると思われていた八代チーフが何故この場にいるの
か――傍目にもわかるぐらい、豊作は動揺していた。
 しかし事情を説明するにつれ、落ち着きを取り戻していく。最後に、彼は溜息をつい
た。だがそれは、安堵というよりも疲れにも似た吐息だった。
「ま、まあ事情は分かったよ」
 まだ疑わしそうな表情をしながらも、豊作は一応そう頷いた。
 清四郎が言ったとおり、孤立しかけている現段階では、心強い味方であることには
間違いない。彼が反専務派の放ったスパイでさえなければ。
(ああ、またそんなことを考えている)
 豊作は自分の思考に嫌気がさして、ふたたび溜息をつく。
 自分を支持してくれているはずの人間の中に、確実に裏切り者がいる。それもひとり
ではないだろう。
 実のところ、疑っている人間も何人かいるのだ。だがそれを魅録に言うだけの勇気
が自分にはない。
 まだ信じたいと思う気持ちが、豊作の行動を鈍くする。これではいけないのに。
 覚悟を決めなければならない。信じているだけでは、自分はこの会社を守れない。
 豊作は、じっと八代を見た。この若者は信じるに足るだろうか? たとえ言葉が真実
だとしても、味方に引き入れるだけの価値があるだろうか?
 へらっと笑っていた八代が、豊作の眼差しに表情を改めた。
 言いようも無い緊張感に包まれ、倶楽部の面々はとりあえず黙って見守る。
 それは時間にしては数秒のことであったが、何分にも及ぶ長い沈黙にさえ感じられた。
 ふと豊作は、八代の瞳が殊の外真摯であることに気がついた。
 肩の力を抜き、ふっと顔を逸らした豊作は「ありがとう。頼りにしている」とだけ言った。
 その言葉を聞いた瞬間、八代は何故か呆然とした表情を浮かべた。

20 :秋の手触り[129]:04/11/30 00:03:28
「さあ、みんな揃ったことだし、さっさと情報交換しないか。俺らも結構時間がないんだ」
 話が進まないので、魅録がようやく口を出した。本当はパーティーの後、すぐにでも
悠理とともに泥棒の真似事をする予定だった。しかし有閑倶楽部のほかのメンバーや
八代などが急遽参加するという不測の事態があったため、一旦ゆっくり話しをした方が
いいと判断してホテルの部屋をとったのだ。
 チームのメンバーが増えると出来ることが広がるが、その分齟齬も生じやすい。
 同世代の人間よりは人を動かすのには慣れているが、有閑倶楽部で司令塔の役目
を負うのは初めてのことだ。魅録は用心することにしていた。
 まず清四郎が携帯の細工に成功した人間について報告し、今度は美童と可憐がそれ
ぞれ手に入れた情報を語る。
「うーん、戸村社長の秘書は何も知らなかったよ。まあ本社ではなくても剣菱グループ
社長の秘書やってるぐらいだから、よく教育されてるだけかもしれないけど」
 でもあれは多分、何もないね。
 自信をもって美童は言う。彼にしてはかなり念入りに口説いたのだ。秘書のあの
うっとりとした表情を見ても、嘘はついてないだろう。
「怪しいのはやっぱり経理部だね。あそこに働く女の子二人が、そろって課の雰囲気が
変で仕事がしにくいらしい。それも最近、上司の命令で用途が曖昧な経費をほとんど
ノーチェックで通さないといけないんだって。なんかややこしいことに巻きこまれたら厭
だし、辞めたいって愚痴零してた」
「ふーん、一般の社員の子にも分かるような変な雰囲気があるのか。まあ経理部は
がちがちの反専務派らしいし」
「経理部は完全に黒ね。絶対関わってる」
 魅録の呟きに答えるようにして断言したのは可憐である。
 彼女は経理部長本人から直接情報収集している。
「して、その根拠は?」

21 :秋の手触り[130]:04/11/30 00:04:30
「だって魅録。いくら剣菱グループとはいっても、重役でもなんでもない経理部長が、
奥さんに内緒で愛人を囲えると思う? 単なる不倫だけならともかくとして、高級
マンションを買い与えて、外出その他全部制限する完全な『囲いこみ』の愛人よ?」
「無理だろうなぁ」
 そういって魅録が豊作の方を見ると、彼も頷いた。
 完全な囲いこみとなるとかなりの手当てを愛人に手渡す必要がある。ただの不倫と
違う点は、愛人は「契約」という関係なのだ。
「生活費抜きで、月40万ですって」
 まあそれくらいが妥当だろう。買い与えるマンションや生活費を加えると、ただの部長
程度では洒落にならないぐらいの出費が……。
(――って)
「そんなことまで本人から聞いたのか? えらく具体的な内容だけど」
「本人から愛人にならないかって誘われたのよ」
 あたしをなんだと思ってるのかしら。月40万で買える女じゃないわ、などぶつぶつ
言いながら可憐は髪を掻き揚げた。今のような大胆なドレスを纏うまでもなく、彼女
には匂いたつような色気がある。
 さすがだなと魅録は苦笑するしかない。
「美童の言うとおり、戸村社長の方は何も後ろ暗いところなんかなさそうだったわ。もと
もとクリーンなイメージのある人なんでしょ? 反専務派には違いないんでしょうけど、
人を陥れるようなことをするようには思えなかった。ま、パーティーではじめて会った
人間にぺらぺら内情を話すようなら人のトップには立てないでしょうけどね」
 そりゃあまあ、そうだろう。
「他には?」
「うーん、そうねえ。高砂っていう人……常務だっけ? なんかあの人に」
 変なところで可憐は台詞を切った。言い淀みながら、上目遣いで豊作を見る。
「経理部長がへつらってた。おかしくない?」

22 :秋の手触り[131]:04/11/30 00:05:14
 告げ口するみたいで嫌だけど、常務って一応豊作さん側の人でしょう?
 そう言いながら可憐は気遣わしそうな表情を浮かべる。
 ふと魅録は、豊作と高砂の間に流れていた他人行儀な空気を思い出した。
 一度胸襟を開いたら、情け無いまでにフランクな空気醸し出す豊作が、役付きの
中では唯一の味方である高砂に対して硬い態度をとる。
 それは。
「心当たり――あるって顔ですね」
 豊作の方をみやれば、彼はすこし青褪めながらも、しっかりとした表情で頷いた。
 それまで朧だった仮想敵の姿が、魅録の中ではっきりと形をなしていった。
 気の良さそうな笑みで、年下の上司を見守っているような態度をとっていた高砂常務
が、実のところ黒幕のひとりだったとは。
「ああ、気づいては、いたんだ」
 俄かに認めたくなかっただけで。
 静かにそう認める豊作に、魅録は厳しい眼差しを向ける。
「俺を――俺たちと一緒に戦おうっていうのなら、隠し事をなしにしてもらわないと困り
ます」
「そんな言い方ないだろうっ」
 豊作の代わりに抗弁したのは悠理だった。
 もちろん魅録にも、豊作の心情は理解できる。仲間に裏切られるというのは、男に
とって痛恨の極みだ。だがそんなことを言っている場合ではない。
 何も知らない状態で動くことほど危険なことはない。
「いいんだ悠理――すまなかった。これからは全部話す」
 豊作も己の否を認めて、潔く頭を下げた。
 そして隠し事がなくなったせいだろう。さっぱりとした顔で、彼は顔をあげた。
「今井メディカルが裏でかかわっているというのはみんなの知ってる通りだけど」
 そういって、経緯を語りだす。

23 :秋の手触り[132]:04/11/30 00:05:59
 告げ口するみたいで嫌だけど、常務って一応豊作さん側の人でしょう?
 そう言いながら可憐は気遣わしそうな表情を浮かべる。
 ふと魅録は、豊作と高砂の間に流れていた他人行儀な空気を思い出した。
 一度胸襟を開いたら、情け無いまでにフランクな空気醸し出す豊作が、役付きの
中では唯一の味方である高砂に対して硬い態度をとる。
 それは。
「心当たり――あるって顔ですね」
 豊作の方をみやれば、彼はすこし青褪めながらも、しっかりとした表情で頷いた。
 それまで朧だった仮想敵の姿が、魅録の中ではっきりと形をなしていった。
 気の良さそうな笑みで、年下の上司を見守っているような態度をとっていた高砂常務
が、実のところ黒幕のひとりだったとは。
「ああ、気づいては、いたんだ」
 俄かに認めたくなかっただけで。
 静かにそう認める豊作に、魅録は厳しい眼差しを向ける。
「俺を――俺たちと一緒に戦おうっていうのなら、隠し事をなしにしてもらわないと困り
ます」
「そんな言い方ないだろうっ」
 豊作の代わりに抗弁したのは悠理だった。
 もちろん魅録にも、豊作の心情は理解できる。仲間に裏切られるというのは、男に
とって痛恨の極みだ。だがそんなことを言っている場合ではない。
 何も知らない状態で動くことほど危険なことはない。
「いいんだ悠理――すまなかった。これからは全部話す」
 豊作も己の否を認めて、潔く頭を下げた。
 そして隠し事がなくなったせいだろう。さっぱりとした顔で、彼は顔をあげた。
「今井メディカルが裏でかかわっているというのはみんなの知ってる通りだけど」
 そういって、経緯を語りだす。

24 :秋の手触り[133]:04/11/30 00:06:40
「今井メディカルの研究開発センターのセンター長が、高砂常務と連絡をとっていた
んだ」
「なぜそれを」
「興信所をつかって、前から今井メディカルの動向を探っていたのは言っていた
だろう? うちの研究スタッフが向こうに何人か引き抜かれてるから、センター長は
とくに念入りに調査さいてた。それに引っかかったんだ」
 それもたった一度だけで、何の証拠にもなりはしないけれど。
「そう……ですか」
 何はともあれ、進展があった。
 いや、豊作はもともと知っていたわけだからそれを進展とは呼ばないのかもしれ
ないが、少なくとも情報は集まった。
 魅録の頭の中で、これから家に忍び込んで携帯に細工する人間のリストに、高砂
常務の名前がリストアップされる。
 魅録がこれから調べなければいけないことに思いを馳せた、そのときだった。
「引き抜きといえば」
 それまで沈黙をたもっていた八代が口を出した。
「さっき、引き抜きをかけられてるっぽい奴見たよ」
「えっ」
 思わずといった様子で豊作が腰を浮かせる。
「野梨子、さっきの写メール見せて」
「ええ」
 八代に促され、折りたたみ式の携帯電話を広げてみせる野梨子に、一同の注視
が集まった。
 八代は先ほど見かけたふたりの男について話してみせる。壮年の方の言葉は聞
きとることが出来なかったが、若い男の方は途切れ途切れでああるが、拾い出す
ことが出来た。

25 :秋の手触り[134]:04/11/30 00:08:56
     『剣菱の令嬢が今井の――輿入れ………もし、――』
      剣菱の令嬢が今井の家に輿入れの話がもし本当なら、

     『大丈夫な…ですか、その、僕をひ――ーという話は』
      大丈夫なのですか、その、僕を引き抜くという話は』

     「僕には……後がありません」


「魅録君の狙い通り、悠理さんと今井の令息との話は、けっこう揺さぶりになってる
みたいだね」
 のんびりと言いながらも、八代の眼差しは鋭い。
 これを目撃したときは、何かの役に立つかも、ぐらいにしか思っていなかった。
 しかし。
 高砂の件で青褪めていた豊作の顔色は更に悪くなって、白といって差し支えない
程になっていた。魅録もまた険しく口を引き結んでいる。
「このふたりの素性を知ってるんですね?」
 ああ、と呻くように豊作は頷いた。
「年のいった方の人間は、先ほど話していた今井メディカルの研究開発センターの
センター長だ」
 画面を指差しながら、気持ちを落ち着かせるように豊作はゆっくり言う。
「そしてもうひとりは」
 苦しくてならない、といった表情をする豊作のあとを継いで、魅録は言った。
 心臓が燃えている。打ちのめされる気持ちよりもずっと強く、魅録は血気に逸って
いた。

「剣菱精機の開発部の部長、高田さん、だ」


ツヅク

26 :秋の手触り:04/11/30 00:11:26
さっそくミスしてしまいました。
132は重複でした。
すみません。

27 :名無し草:04/11/30 00:29:21
清→可の微妙Hなクリスマスストーリー希望♪

28 :名無し草:04/11/30 00:36:38
>秋の手触り

ずっとお待ちしていたので、とてもうれしいです!
あいつか!裏切り者は!?という所で終わりましたね…。
毎回ハラハラドキドキさせられます。
緻密なストーリーで、書かれるのは大変かと思いますが、
また続きが降臨する日をお待ちしてます。

29 :名無し草:04/11/30 20:16:37
>秋の手触り

もう読めないかも・・と思っていました。
降臨めちゃめちゃ嬉しいです!
全員が揃ってのそれぞれの有閑倶楽部らしい活躍が楽しみです。

30 :名無し草:04/11/30 23:16:13
>秋の手触り
待ってました。
ドキドキの事件展開で、目が離せません。
魅録のチーム指揮も気になるし、八代氏の動向も注目です。
悠理の恋心が何処へ行くのか。出来れば幸せになって欲しいです。

31 :名無し草:04/11/30 23:21:19
>秋の手触り
お待ちしてました。
嵐さんのところへ言って読み直し、改めて密度の濃いお話に満足してます。
でも、いろんな人に裏切られて豊作さんつらそうだぁ。
がんばれ豊作!

>BE WITH YOU
こういうほのぼのした二人もいいですね。
微笑ましい感じでスキです。

32 :名無し草:04/12/01 19:29:15
鬼闇うpします。
>>http://etc3.2ch.net/test/read.cgi/nanmin/1090846366/663 の続きです。
オカルトですので、苦手な方はスルーして下さい。

33 :鬼闇(89):04/12/01 19:30:46
刀守神社では義正から連絡を受けた神主が、鬼を退治するという輩を心待ちにしていた。
「鬼を退治するという若者がそちらに向かうので、刀を渡して欲しい。」

しめ縄で囲っている神殿の前で二回礼をした後、二つ拍手を叩き、再び一礼をする。
神主は縄をくぐり、中央に祭ってある『闘鬼丸』を手にした。
ずしりとした刀の重さが、今の切羽詰った状況を物語っていた。
外の悲惨な状況は知っていた。
鬼が手当たり次第に人を襲っているということを。

「千年の時を経て鬼が現れし時、四つの御霊と二つの鏡にて鬼を封じよ。さすれば御霊刀身
に宿り、再びこの世に光溢れん…か。」
この社に仕える者達より伝わりし言葉である。
恐らく『刀身』こそが、この刀のことなのだろう。
刀は代々この刀守神社でお守りしてきた。
しかし、刀を遣うとなれば話は別である。
代々仕えているからといって刀が遣えるわけでもなく、自ら戦いたくとも手も足も出ないというのが
現状なのだ。
今の時代、日本刀で戦える者などいるのだろうか?
まるで大海で一匹の魚を探すようなものだと、感じずにはいられなかった。

「滅びること…それも運命なのかも知れぬな。」
誰に聞かせるわけでもなく神主はそう呟き、再び一礼して神殿を後にした。
歩きながら大祓詞(おおはらえことば)を唱え、玄関へと向かった。
「高天原に神留坐す 皇吾親神漏岐 神漏美の命以ちて 八百萬神等を神集へに集へ賜ひ…」

――神は聞いて下さるのだろうか。それとも…
全てはこれから訪れようとしている者にかかっている。
「さて、どんな輩が来るのやら。」
玄関で立ち止まり、再び大祓詞を唱えながら神主は目を閉じた。

34 :鬼闇(90):04/12/01 19:31:55
――と、その時。
「失礼します。」
若者が二人、社務所へと飛び込んできた。

「君等が佐々先生の言う?」
「ええ。」
ただ一言だけ答えた清四郎とその後ろに立つ魅録を見て、神主は大きく息を吐いた。

――どんな猛者が来るのかと思えば、端正な顔立ちの若者が二人…か。
「これを…」
神主はそう言葉にするのが精一杯だった。

刀を受け取ったのは、黒髪の青年。
両親をはじめ代々神職としてこの社に仕えてきた神主には、人の気というものが見えた。
武道においては、技術に勝るものが気である。
小さな気はより大きな気に飲み込まれ、勝負が決する。
この青年に気は見えない。
よほどの使い手であれば気を操ることなど簡単なことなのかもしれないが、どう見てもこの若者が
武道に通じているとも思えなかった。
むしろ、後ろに立っているピンク頭の若者の方が猛々しい気を発している。
それでも――鬼を倒すまではいかないだろう。

清四郎は手にした刀を目の高さまで持ち上げた。
千年前に鍛えられた『闘鬼丸』は、魅録の持つ刀や美童が使用した三鈷剣に比べて遥かに重い
が、清四郎の動作に全く重さは感じられなかった。
左手で柄を、右手で鞘を持って、スッと30センチ程刀身を覗かせる。
キラリと光るその刀には、巻物に書いてあったとおり一点の曇りもなかった。
カシン。
清四郎は音を立てて鞘を戻すと、右の手の内に刀を納めた。

35 :鬼闇(91):04/12/01 19:33:16
「魅録、行きますよ。」
右手にぐっと力を込め、清四郎がそう口にした時、神主は清四郎の業火のような気を感じ、驚きの
あまり目を見開いた。

――このような強い気を感じたのは初めて…いや、二度目だな。
十数年前、雲海と名乗る和尚がこの刀守神社を訪れた。
人当たりの良い、ほんのりとやさしい気を漂わせるこの和尚と気が合い、泊まるように勧め、彼も
了承した。
早朝、なにやら激しい気を感じ、神主はそっと気の発せられる場所を覗き込んだ。
すると、そこには雲海がいた。
穏やかな気しか感じられなかった和尚が、猛々しい気を発して武道の稽古をしていたのである。
話を聞いたところ、武道における日本一の座を手に入れたとのことだ。
この人の良さそうな和尚が…と、驚いたことを神主は思い出していた。

――ようやく信用してもらえたようですね。
険しかった神主の顔がほころぶのを感じ、清四郎は満足そうな笑みを浮かべた。
「一つお聞きしてもよろしいですか?」
「何でしょう?」
「何方から武道を学ばれたのですか?」
この神主の質問に、魅録は驚きを隠せなかった。
隣に立つこの男が武道の達人だと見破る者は皆無といって良い。
それを、この神主はあっさりと見破ったのだ。
「人間国宝であられる、東村寺の雲海和尚より教わりました。」
清四郎の答えに神主はようやく笑顔を取り戻した。
「それならば間違いありますまい。宜しく頼みましたぞ。」

――神はまだ我々を見捨てておらぬようだ。
社務所を後にする二人の背中を見送っていた。
「まだまだ修行が足らぬな。」
そう呟くと、神主は社務所の中へと戻っていった。

36 :鬼闇(92):04/12/01 19:34:42
清四郎と魅録は鬼の待つ広場へと向かっていた。
社務所へは裏口にあたる北の方から入ったので、鬼のいる広場へは社殿をぐるりと回り込まなけ
ればならない。

「やられるわけにはいかないよな。」
魅録が険しい顔のまま、自分自身に言い聞かせるよう言葉にする。
「そうですね。では、究極の桃太郎になりますか。」
相変わらず冷静な清四郎の言葉に、魅録はほんの少しだけ落ち着きを取り戻した。
知らぬ間に、刀を握り締める拳が白かった。
そんな魅録の緊張を察したのであろう。
「じゃ、俺は究極の共の犬ってか?」
少し軽口を叩くと、次第に拳にも血の気が戻ってきた。
「そういうことになりますね。」
清四郎の言葉に魅録も声を上げて笑ったが、目の前に広場が開けてくる頃には自然と笑いが消
えた。

鬼が立っていた。
何をするわけでもなく、ただ立っていたのである。
もっとも、その力や妖力は封じてはいるものの、圧倒的な威圧感は取り払われていない。

広場に出る一歩手前で足を止め、二人は鬼の様子を探った。
自分を倒しに来る人間を待ち構えているのだろうか?
太い腕を組んだまま、前方を凝視している。
痛いほどの静けさが、恐ろしさをより際立たせていた。

「美童達はどうしてる?」
「恐らくこの神社に向かっているでしょうね。先ほどの光がアイツらを導いていると思いますよ。」
清四郎の言葉を受け、魅録は視線だけで広場を巡らせてみたものの、まだ皆の来る気配はない。
ということは、玉の力が弱まっていると考えておいた方が良いだろう。
過大評価は命取りになり兼ねない。

37 :鬼闇(93):04/12/01 19:36:01
「すぐにやって来ますよ。ま、野梨子は少し遅れるかもしれませんが。」
「フッ。」
清四郎と魅録が顔を見合わせ、軽く笑った。
本人が聞いていたら間違いなく顔を真っ赤にして怒るに違いない。
「では、参りましょう。」
二人は鬼の前へと立った。


鬼の視線が二人を捕らえた。
二人は鬼を見上げ、鬼は二人を見下ろしている。
「でか…」
「あまりお相手したくないタイプですねぇ。」
しばらく睨み合いが続いたが、最初に動いたのは鬼の口。
「――人間などにやられはせぬ。」
鬼がゆっくりと動いた。

動き出した鬼に集中しながらも、二人は察した。
上空に居た時は掲げられた玉によって力を封じられたが、今は、皆がこの社に向かっている為、
玉は見えない。
やはり封印の力が弱まっているようだ。
「おまけに俺達が見えるらしい。」
魅録が鞘に手を掛けた。
「僕達に姿を晒した代わりに、鬼にも僕達が見えるようですね」
清四郎はスッと鞘から刀を抜き、魅録も中段の位置に刀を構えた。
ブンッ!!
鬼の丸太のような腕が襲いかかってきた。

ドンッ!
間一髪避けたものの、鬼の拳が叩きつけた地面には拳が潜り込んでいた。
鬼は腕を引き抜くと、清四郎の頭めがけて拳を下ろす。

38 :鬼闇(94):04/12/01 19:36:54
「おりゃーっ!」
その隙に魅録が鬼の背中へと刀を振り下ろした。
ガツッ!
魅録の手がジンジンと痺れた。
まるで岩に打ち下ろしたような衝撃だった。
「たかが人間に我ら鬼を倒すことなど出来ると思っているのか?」
鬼が振り向くと同時に腕を振り払った。

ドガッ!
清四郎はヒラリと身を交わしたが、痺れの取れない魅録には逃げられなかった。
刀で身を庇ったものの、魅録は二メートル程飛ばされ、地面と激突した。
「魅録!!」
「ああ、大丈夫だ。」
魅録は身体を起こし、口元を拭うと腕に赤い筋が走った。
口内には鉄の味が広がる。
「ってぇ……」
体中がジンジンと痛み、思わず魅録の口から呻き声が漏れた。
これでも力が弱まっているというのである。
封印前には決して遭いたくないな、と心から思った。

不意にタタタタッと駆けて来る足音が聞こえた。
「悪い、遅くなって!」
息を切らし、ぜーぜー言いながらやって来たのは悠理だった。
「わわっ!こいつが鬼なのか?」
驚きのあまり玉を落としそうになったが、さすが悠理、動物並みの反射神経でしっかりと掴んだ。
「悠理は朱雀の玉ですから、南の位置、その場で玉を出して下さい!」
「わ、わかった!」
清四郎の指示に悠理は大声で答えると朱雀の玉を掲げた。
再び玉は淡くぼぅっと光り、鬼の妖力を奪った。

39 :鬼闇(95):04/12/01 19:38:02
「二番手が僕?うわっ!これが鬼?」
次に息を切らしながら現れたのは美童だ。
清四郎は鬼の攻撃を避けながら、しかし現れた悠理や美童に攻撃の手が向かわないよう距離を
保ちながら大声で叫んだ。
「美童は玄武の玉、北に立って玉を!」
美童は大きく頷いて北の位置に立ち、きっと鬼を睨む。
「行くよ!」
玉を掲げ、再び淡い光が鬼の防御力を奪った。

「あたしが三番手ね。」
可憐もぜいぜい言いながら走ってきた。
「ヒッ!」
鬼を目の前にして、可憐も思わず声を上げた。
可憐の声が聞こえ、一瞬目を逸らしたその時。
鬼の攻撃が清四郎を襲った。
ブンッ!!
はっと気が付いた時には、既に鬼の腕が目の前に迫っていた。
とっさに身体を引いたものの、鬼の爪がわずかに腕へと突き刺さり、真横に払われた。
「つぅっ!」
みるみるうちに、清四郎の腕に赤く太い筋が現れた。
「清四郎!!」
「大丈夫です!可憐は白虎の玉ですから、西で玉を出して下さい!」
可憐に安心させるように、清四郎は務めて平静な声で指示を出した。
「オッケー!」
可憐は清四郎の様子を察したのか、一段と声を張り上げ、玉を掲げた。
淡くぼぅと光った玉が鬼の力を奪った。

「貴様ら…。人間など我ら鬼の餌食になっていればよいものを。」
清四郎と魅録が二人がかりで戦うものの、動きのある鬼に交わされてしまう。
肝心の動きが、まだまだ素早いのだ。

40 :鬼闇(96):04/12/01 19:38:57
先ほど封じた筈の動きは、封印の力が弱まっているせいか、鬼の素早さはやはり尋常ではない。
妖力、防御、力を封じた鬼に刀は傷を負わすことは出来るが、致命傷には程遠いものだ。
「ようやく、千年の時を待った。お前らに邪魔はさせない。」
鬼の動きが一段と俊敏になり、清四郎と魅録は攻撃をかわすことが精一杯だった。
「くそっ、野梨子はまだか!」

「ご、ごめんなさい、遅くなりました…。」
清四郎の声と同時に喘ぐような声が重い足取りと共に聞こえてきた。
野梨子は今にも倒れそうなほど苦しそうに肩を上下させているが、玉だけはしっかりと抱え、気丈
なことに鬼の姿を見ても息を呑むだけで、声を上げなかった。
「野梨子、早く東の青龍の玉を。」
野梨子は頷くと、玉を天高く掲げた。

四つの玉が空に掲げられ、再び玉に光が満ち、眩しいほどに輝き始めた。
そして――鬼の動きが止まった。
「今です!魅録!」
魅録は刀を振りかぶり、清四郎が鬼の懐へと飛び込んだ。
「おりゃーっ!」
「フムッ!」
前から清四郎が、後ろから魅録が鬼に向かって刀を走らせた。
ザシュッ!
バシュッ!

「ば、ばかな……」
鬼の伸ばした腕が空を掴み、ゆっくりと身体が倒れていった。
ズシン。
「お前らなんかに勝手にされてたまるか!」
「人間の力を思い知ることです。」
二人はカチンと音を立てて刀を鞘に収めた。
地面に横たわる鬼の身体はシューシューと音を立て、地中へと融けていった。

41 :鬼闇(97):04/12/01 19:40:06
「やったな、清四郎!」
魅録と清四郎はガッチリと握手を交わした。
「魅録もみんなもご苦労様です。これで物語のとおり、めでたし、めでたし、ですね。」
二人の下へ皆が駆け寄った。
「あたい、腹へったーっ!!」
悠理が口を開くと同時に、腹の虫もぐぅーっと音を立てた。
「そういえばお昼も食べてないし、私もお腹空いちゃった。」
可憐の言葉に美童が腕時計で時間を確認する。
「もう四時を周っているもんね、長い一日だったよなぁ。」

緊張感もほぐれた晴れやかな顔の中、一人浮かぬ顔をしている幼馴染に清四郎が声を掛けた。
「どうしました、野梨子?」
さっきまでの闇が嘘のように晴れあがった青空を見つめたまま、野梨子が呟いた。
「…鬼を倒したからってあの親子が生き返るわけではありませんけど、成仏できたのかしら?まる
で夢を見ていたような出来事でしたもの。」
そんな野梨子の肩にぽんと手を置き、清四郎はゆっくりと答えた。
「そうですね。だから僕達は忘れずにいましょう。」

古くから伝承してきた忠義を忘れ、人間が犯してしまった愚かな行為。
しかし、その愚かさを正すのも又、人間だ。
それを、自身が忘れなければ良いこと。
野梨子は大きく頷いた。

「では帰るとしますか、共の者よ。褒美はきび団子ですから安いものです。」
清四郎の言葉に異を唱えたのは犬、猿、雉役の魅録、悠理、美童だった。
「俺達、あんなに働いて団子一つかよ!」
「団子よりも可愛い女の子がいいなぁ。祥子さんみたいな。」
「あたい、一個じゃなくて腹いっぱいじゃなきゃやだ!」
悲しみを湛えていた野梨子の顔にもようやく笑顔が戻った。
「まぁ、悠理ったら。」

42 :鬼闇(98):04/12/01 19:41:37
「悠理には町の平和より目の前のきび団子よね。」
「可憐、言っておくけどな、あたいはそんなに人でなしじゃないぞ。そんな、食いもん目当てだなん
て、あさましいじゃないか。」
胸の内で自画自賛しながら、悠理は腕を組んでしみじみと語った。
――くぅ〜、いいこと言うなぁ、あたいって。

「すごいよ、悠理からそんな言葉が出るなんてさ。」
美童は素直に関心していたようだが、悠理のセリフを信じていない魅録からは無情な言葉が告げ
られた。
「じゃ、お前は無料奉仕つーことで。」
「へっ?」
「そうですね。あさましい僕達はご褒美を頂きにあがりますよ。きっと義正さん達がご馳走を用意し
て待っていると思いますから。労働の対価はきちんと頂かないと。」
義正の待つ佐々の家へ向かおうとする清四郎と魅録に悠理が抗議の声を上げた。
「ちょ、ちょと待ってよ。清四郎ちゃん、それは無いんじゃないの?」
清四郎に擦り寄りながらご機嫌を取ろうとした悠理に、野梨子が更なる追い討ちをかける。
「では、私達も参りましょうか、可憐?やさしい悠理に後はまかせて。」
「冗談だよね?あたいだけご馳走食べられないなんて…」
口をパクパクさせながら固まっている悠理に、可憐がにっこりと微笑みながら口を開いた。
「大丈夫よ、悠理。美童というお仲間がいるじゃない。だから後始末は宜しくね。」
可憐は右手を上げて掌をヒラヒラと振り、清四郎、魅録の後を野梨子と共に歩き出した。
「そ、そんな…僕まで?だいたい、悠理が心にも思ってないことを言うから悪いんだよ!」
悠理の巻き添えを食った感の美童は、怒りの矛先を本人へ向けた。
「何だと?何でもあたいのせいにするな!このお調子モン!」
二人がギャーギャー言い争っている内にも四人はどんどん歩いて行く。
それに気付いた悠理が大声で叫んだ。
「あっ、コラ!あたい達を置いていくなぁ―っ!」
「待ってってば!」
悠理と美童も四人の元へと駆けて行った。

           【つづく】


43 :名無し草:04/12/01 21:47:29
>鬼闇

冒頭、清四郎の格好よさに腰が砕けそうになりました。←清四郎贔屓。
魅録とのかけあいもよかった!
こういう二人の関係は、原作を彷佛とさせますね。
しかし、一気にラストかと思いきや、まだ続くのですか。
6人のさらなる活躍(?)、期待してます。

44 :名無し草:04/12/01 22:00:15
>鬼闇
43さん同意〜!
究極桃太郎清四郎、本当に格好いいですね。ううっヨダレが。
あれだけの緊張感の中でも有閑!なかけあいがたまりません。
続き、ワクワクして待ってます。

45 :名無し草:04/12/01 23:06:36
鬼闇、楽しみにしておりました!
最終回まであと少しでしょうか?
それも寂しいような楽しみなような。

46 :名無し草:04/12/02 01:12:09
>鬼闇
予想通り遅れてきた野梨子に笑ってしまいました。
なにはともあれ、鬼退治。無事に終わってよかったですね。
が、まだ続きが……なにが待っているのでしょう?

47 :名無し草:04/12/02 01:34:48
「横恋慕」を少しだけUpします。
前スレ>611の続き。3レスいただきます。


48 :横恋慕(98)魅×悠×清:04/12/02 01:35:53
「気付くのに時間かかりすぎだよ、清四郎。優等生の名が泣くよ?まァ、恋愛に単位があったら、
お前さんは間違いなく落第だねぇ〜」
小馬鹿にするように笑い出した親友の様子に、清四郎はすうっと目を細めた。
「つまり・・・ミモザさんは、ダミーだったということですか」

「ってゆーか・・・魅録達が勝手に勘違いしただけ。彼女も面白がって協力してくれてたんだ
けど、旦那の転勤でアメリカに行くことになってね。最後に可憐と野梨子の前で派手に喧嘩
してるとこ見せといたから、僕が『失恋』したらあいつらが慰めてくれるはずだよ」
軽く眉を上げ、美童はこともなげに言い放った。

「どうして・・・悠理にそうと伝えないんですか?僕の世話を焼いてる場合じゃ・・・」
ますますわからない、という表情で、清四郎は大きくかぶりを振った。


「勝てない勝負なんか、誰がするかよ」

戻ってきたのは、かつて彼に向けて清四郎が言った科白だった。
美童は子供のように唇を尖らせ、ずるずるとシートに沈み込む。

「最初からわかってたんだよ、お前さん達がお互いを気にしすぎるくらい気にしてることは。けど、
どっちもどうしようもない恋愛オンチだから、潮時が来るまで放っとくしかないだろうと思ってさ。
・・・僕は悠理に男だとさえ思われてないんだから、割り込む余地なんかないってことも、ね」
清四郎はじっとその言葉を受け止めていた。
少々、混乱しながらも。


49 :横恋慕(99):04/12/02 01:36:29
「でも・・・計算外だったのは魅録だよ!まさかあいつが悠理に惚れるとは思ってなかったからね。
その上、お前さんときたら、頑なに自分の気持ちを認めようとしないし、挙げ句に『勝てない勝負
はしない』だの、『お節介はやめてくれ』だの・・・トンチンカンもいいとこだよ!!」
両手を上に向けながら、美童は口の端を下げ、首を傾けた。
いかにも外人風のジェスチャーだ。呆れた、という感情を表現する時の。

「・・・だって・・・そうとしか・・・。僕は悠理を泣かせてばかりだし・・・あいつが笑顔を見せる
のは、いつだって、魅録と一緒にいる時で・・・」
ぼんやりと見開かれた黒い瞳を前に、美童は一つため息をついた。
「笑わせるくらい、僕にだってできるよ?だけど、あいつを泣かすことができるのは・・・」

言葉を切り、無表情に唇を噛み締めている男の胸を拳で突いた。
「清四郎。お前だけなんだよ」


清四郎は言葉を失ったまま、全てを見透かしているかのような、青い瞳を見返していた。
そして、右手でこめかみを掴むようにし、顔を覆った。
ややあって、その形のいい唇から、苛立たしげな呟きが漏れた。
「どうして・・・」

「何?どうしてもっと早く教えてくれなかった、とでも言う気?」
美童が意地悪く眉を上げると、清四郎は小さく首を左右に振った。
「・・・いいえ。どうしてそんな大切なことに気付けなかったのか・・・自分が不甲斐なくて」

それは、自分自身へ向けられた憤りだった。
大切なものを、見落とし続けてきたことへの。


50 :横恋慕(100):04/12/02 01:37:04
「全く同感だね。お前さんが悠理をしっかり掴まえてなかったおかげで、こっちは大迷惑だよ。
魅録ばかりか、見守る決意を固めてた僕まで・・・もしかしたらチャンスがあるかも、なんて淡い
期待を持っちゃった。お前らが牽制し合っててくれたら、『漁夫の利』ってやつ?で、傷付いた
悠理がこっちに転がり込んでくるかも、なーんて・・・」
少し寂しげに、美童は笑った。
「だけど、結局つけ込めなかったよ・・・悠理があんまり辛そうで。あいつは、いつだってお前を
見てたから」
さらに、小さく喉を鳴らして笑い出す。
「ほんっとに・・・惚れた女が他の男を見てるのに気付かないなんてさ、魅録も相当な恋愛オンチ
だよね。気の毒でもう見てられないよ!」
その時、清四郎がすっと顔を上げ、喋り続ける友人を見据えた。
その漆黒の瞳には、もう迷いはなかった。

「美童。剣菱に・・・車を、剣菱に回して下さい」

名を呼ばれた男は、おやおや、と笑った。
「只ってわけにはいかないなァ。・・・交換条件呑む気ある?」
揶揄するような口調にも、清四郎はしっかりと頷いた。僕にできることなら何でもします、と。

「二度と悠理を泣かせない?」
美童は軽やかに笑い、まるで冗談のように言う。
だが、その瞳の奥に真剣な光を認めた清四郎は、ぐっと顎を引いた。
「・・・約束します」

「そう。じゃ、しょーがないな」
髪を梳き上げた後、美童はノックをするように、コン、と車の窓を叩いて見せた。

その向こうに、二人のよく知る大豪邸が姿を現していた。


51 :名無し草:04/12/02 01:37:31
[続く]が入りませんでした。今日はここまでです。


52 :名無し草:04/12/02 13:27:20
>横恋慕
お待ちしてました(^^)。
清四郎が悠理の気持ちを知りましたねえ。
しかし美童もだったとはびっくりしました。最初から
読み返さねば。
このあと清四郎が剣菱邸で悠理とどう話し合ってくれる
か、脳内で勝手に妄想しながらお待ちします。うふ

53 :名無し草:04/12/02 14:05:02
横恋慕、とうとうクライマックス近し?ですね!
作者さんの書かれる美童が前々からめっちゃカコイイので、
実はこの3人のトライアングル展開で読みたいな〜と内心
思っておりましたが、ズバリ読みは当たってましたねw 
(清×悠←美。以前にこれで美童が勝つ・・というか清四郎がいつの間にかフェードアウトして
しまうパターンのお話があったので、今度は思いきり戦って清四郎に勝って欲しかった)
しかし敵に宣戦布告かと思いきや、もう応援モードかい。
諦めいいのね美童・・いい人過ぎるw ちょっと残念。
でも続き楽しみにしてまーす!

54 :名無し草:04/12/02 14:11:22
そういえば、ハウル見て来ましたが、ハウルが金髪バージョンの時は
美童とイメージが重なるのは私だけでしょうかw
弱虫でナルシーだけど、大事なとこでは女の子をきちんと守ってエスコート、
まさにツボをつくんですよね〜。
優雅で色気のあるしぐさとか目線や(ついでにキムタクのセクシーボイス)に
クラッと来ますので、美童ファンは必見です。

55 :名無し草:04/12/02 23:15:52
>横恋慕
おお、清四郎が素直になった!
しかし美童までとは驚きです。
ちっとも気付かなかったし、てっきりミモザさんに本気だったのかと・・。
次は清四郎と悠理が思いを伝え合えるでしょうか。
回り道だったけど、幸せになるといいです。
魅録は、誰が慰めるんでしょうか。
やっぱり美童と飲み明しかな。

56 :名無し草:04/12/05 17:12:06
イヤン。静かですね。
クリスマスネタやりませんかー?
清四郎のサンタ姿ってマヌケそうでいいなぁ。
罰ゲームとかでやってくれないかしらん。
誰かの家に忍び込んで見つからずにプレゼント置いてくるとか。




57 :名無し草:04/12/05 22:36:56
クリスマスといえば…。剣菱のお屋敷では盛大なパーティーが催されそう。
サンタはもちろん万作さんでw
従業員にも、金銀財宝入りのプレゼントをバラまくイメージ。
(掛け持ちデートを抜けて、ちゃっかり美童もプレゼントタイムには参加?)
ついでに、影でこっそり男性陣が画策して、女子にミニスカサンタのコスを
着せようとかしてたら、高校生っぽくてかわいいなぁ。

58 :名無し草:04/12/05 22:54:30
お話中すみません。
『鬼闇』ラスト、うpします。
>>42の続きです。

59 :鬼闇(99):04/12/05 22:55:26
「本当に有難うございました。お礼の言葉もありません。町を代表してお礼申し上げます。」
家へ戻った六人全員の無事を確認し、正義は涙を流して喜んだ。
義正と志津子、菊江の他にも、佐々の家には御神体を貸してくれた神社の神主と祥子までもが集
まり、黙ったまま六人に頭を下げた。

菊江は六人に向かって手を合わせ、深く皺の刻まれた顔を一段と皺くちゃにしながら笑顔で迎え
てくれた。
「いかった、本当にいかった。お前さん方に何かあったら、わしゃ死んで詫びねばと思っとったよ。
ほんとに無事で何よりじゃ。」
そう言って何度も拝む菊江に、悠理がポンポンと背中を叩いた。
「ばっちゃん、死んで詫びるなんて縁起の悪いこというなよ。あたい達はこうして帰って来たわけ
だし。どうせばっちゃんは、あと何年もしたら黙っててもお迎えが来んだからさ。」

悪気はないのだ。
悪気がないのは充分承知しているのだが、あまりの言葉に清四郎は手加減しながらも、悠理の頭
をペシッと叩く。
「こら、悠理!!」
魅録と美童は絶句し、可憐と野梨子はフォローしようにも二の句が告げられなかった。

どんな雷が落ちるのかと焦りまくっていた5人は、菊江の大きな笑い声に拍子抜けした。
「ひゃっひゃっひゃ、嬢ちゃんの言うとおりだ。でもな、わしじゃってそう簡単にくたばりゃせんぞ?
わしのような年寄りが目を光らせておかんと、またこの町がどうなるかわからんからのぅ。なぁ、
正義?」
「そうですね。ですから、母さんも元気でいて下さいよ。」
二人の目は穏やかそのもので、悠理以外のメンバーはほっと胸を撫で下ろした。
「そうよ、おばあちゃん。」
「いつまでも元気でいて下さいな。」
可憐と野梨子は心の底から菊江にエールを送り、清四郎、魅録、美童の三人も笑顔を浮かべな
がら頷いた。
「ああまかしとけ。」

60 :鬼闇(100):04/12/05 22:56:23
菊江は満面の笑みを湛え、穏やかな空気が流れる中、悠理だけが頭を撫でながらブツブツと呟い
ていた。
「ほらみろ、ばっちゃんはそんなことじゃ怒ったりしないって。」

「義正さんにお願いがあるのですが。」
茶の間へと場所を移し、皆が座ったところで清四郎が口を開いた。
「何なりと。」
義正の顔を真っ直ぐに見据え、清四郎は言葉を続けた。
「今回の事件は僕達ではなく、皆さんが退治したということにして欲しいのです。」
「何と!」
義正の目が驚きで軽く見開かれた。

「僕達は一介の高校生です。ごく普通の毎日を送りたいんです。もし今回のことが表沙汰になって
しまうと、普通の高校生活を送ることが出来なくなってしまいますから。」
「そうそう、あたい達、まだまだ遊びたいこといっぱいあるんだ!マスコミなんかに追っかけられる
のはゴメンだからな。」
悠理も手をひらひらさせながら眉根を寄せた。
「そうよ、そんなことになっちゃったらプライバシーもなにもあったもんじゃないもの。」
可憐も冗談じゃないわよ、とばかりに顔をしかめる。
プライバシーに人一倍敏感な反応をしたのが、美童だ。
「僕もそれは困るなぁ。マスコミに彼女達のことが全部ばれちゃったら、吊し上げを食らいそう…」
「英雄視されるのもちょっとね。」
魅録が首をすくめ、野梨子がにっこりと微笑んだ。
「そうそう、気楽な学生でいたいのですわ。」

どうやら本気で言っているらしいことを悟った義正は、しばらく腕を組んで目を瞑った。
六人は命をかけてこの町を人々を救ってくれた。
何も出来なかった自分達がマスコミに追いかけられること位、なんの苦もないはず。
「皆さんがそう仰るのでしたら、我々で事を成し遂げたということにしておきましょう。」
義正は意を決すると、快く承諾した。

61 :鬼闇(101):04/12/05 22:57:17
「おっちゃん、あたい腹減って死にそう…。早くご飯食べさせて。」
悠理が今にも死にそうな声を上げてテーブルに突っ伏した。
義正が笑いながら立ち上がると、料理を持ってくるよう志津子に声を掛けた。
「では、早速準備させましょう。食べきれない用意してお待ちしていましたからね。皆さん、本当に
有難うございました。」
義正が再び頭を下げようとしたのを、野梨子が制した。
「やめて下さいな、鬼をやっつけたのはおじ様達ですわ。」
「そうですよ。僕達は桃太郎というお芝居をしただけですから。」
清四郎の言葉を皮切りに、皆が後に続いた。
「そ、俺が犬。」
「僕が雉。」
「あたしと野梨子がおじいさんとおばあさん。」
可憐が悪戯っぽく微笑んで、大団円…という時、ここでも異を唱えたのは、やはり悠理。
「だから、あたいは猿なんてヤダよぉー!」
そんな悠理に野梨子が微笑みを湛えたまま口を開いた。
「あら、ぴったりですわよ。」
「野梨子!」
悠理の抗議の声も空しく、佐々の家は皆の笑い声で溢れていた。

「悠理ちゃん、お待たせ。」
志津子が悠理を憐れに思ったのか、道子がお手伝いさんを連れ、沢山のご馳走をお盆に載せて
部屋に入って来た。
「やったーい!おっちゃん、最高―っ!」
「現金なヤツ…」
さっきまでの怒りはどこへやら、諸手を上げて喜んでいる悠理に、魅録は呆れた口調で呟いた。
テーブルの上には食べきれない程のご馳走が並べられ、今日ばかりは無礼講とばかりに義正は
取っておきの酒を開けた。
皆は浴びるほど飲み、たくさん食べ、そして今生きている喜びと実感を噛み締めていた。

62 :鬼闇(102):04/12/05 22:58:08
「お世話になりました。」
翌朝も澄み切った青空を迎え、快適なドライブ日よりとなった。
六人は積みきれない程の土産と荷物を車に乗せ、義正と別れの挨拶を交わした。
「青洲さんにも宜しくお伝え下さい。君達も日本海の幸が食べたくなったら、いつでもおいで。大歓
迎だよ。」
そんな義正の言葉に、昨日のご馳走を思い出したのか、悠理が飛び上がらんばかりに喜んだ。
「やったーい!」

「また、遊びに来ますね。」
「私もバカンスに。」
「僕は祥子さんに会いに。」
「次はダイビングもいいよな。」
「今度はカンゾウの花咲く頃に。」
清四郎を筆頭に、六人が銘々別れを告げ、車へと乗り込んで佐々の家を出た。
義正と志津子は、車が見えなくなるまで六人を見送っていた。
「…ありがとう。」
そして二人は見えなくなった車に深々と頭を下げた。

六人が乗った車と行き違いに、何台ものワゴン車が佐々の家の前に押し寄せてきた。
バタン、バタンと音を立ててドアを閉める音が響く。
「すみませーん、NTVの者ですが。」
「新潟新聞の者です。」
「すみません、週刊オカルト誌です。」
車から降りたリポーター達は一斉に義道の方へと駆け寄ってきた。

「何か御用ですかな?」
――早速来たか。
それでも六人が出た後で良かった、と正義はしみじみ思った。
「今回の殺人事件のことで、お話を伺わせて頂きたいのですが。何でも鬼が現れたとかという話を
聞きまして、是非とも取材させて欲しいのですが。」

63 :鬼闇(103):04/12/05 22:58:57
右手に新聞社の腕章をつけた中年男性がいきなり義正にマイクを突きつけた。
「鬼――ですか?」
「ええ、町の方々はそのように仰られていますが。どなたが退治されたのかと。」
「桃太郎です。」
義正は志津子と顔を見合わせ、にっこりと微笑んだ。
「はぁ?」
レポーターは予想もしなかった答えに、皆固まっている。
「ですから、桃太郎が現れたんですよ。犬、猿、雉を伴ってね。」

「ちょっと、冗談も大概にして下さいよ!」
レポーターにはそんな正義の答えをタチの悪い冗談にしか思えない。
――ちっ、大学の先生ともあろうものが、何をふざけている!

「冗談だと思うのですか?ならば、人間が鬼を退治出来ると思いますか?」
正義の表情は至って真剣で、レポーターはぐっと答えに詰まった。
「それは、そうですが…」
そんな彼らにお構いなく、正義は続けた。
「あっ、そうそう、ひとつ訂正します。桃太郎のお供は、犬、猿、雉の他にもお爺さんとお婆さんが
一緒でしたよ。」
皆が呆気に取られている中、義正ははっはっはと笑いながら志津子と共に家へと戻っていった。
「ちょ、ちょっと待って下さい!」
「そんな話はいいですから!」
「本当の話を聞かせて下さい!」
レポーター達の怒鳴り声だけが、夏の青空に響いていた。

64 :鬼闇(104):04/12/05 22:59:55
「はよーっ!」
悠理は車から降りると、野梨子と清四郎を見つけ、二人に向かって大きく手を振った。
「おはよう。」
「おはよう、悠理。今日も元気ですのね。」
悠理はあふぅと大きな欠伸をしながら答えた。
「寝不足だけどな。元気だけがあたいの取り得だし」。」
夏休みも終わり、今日は始業式というかったるいものがあるものの、勉強は嫌いだが学校が好き
な悠理は、こうしてきちんと登校してくる。
勿論、母、百合子に叩き起こされてだが。

「おはようございます、菊正宗様、白鹿様、それに剣菱様も。」
清四郎と同じクラスで副委員の喜久泉万里子と友人の桃川絵里香が声を掛けてきた。
委員会などで野梨子と悠理も面識はあるのだが、悠理はこの二人を苦手としていた。
何故ならば、万里子と絵里香から熱烈なファンレタ−を貰ったことがあるからだ。
「悠理様は夏休みをどのように過ごされましたの?」
野梨子と同じ位の身丈の万里子は、少し視線を上に移動させて悠理に問いかけた。
「えっとぉ…」
愛想笑いを浮かべながら答えに詰まる悠理に、清四郎が助け船を出した。
「僕達は小さな島で、倶楽部の皆と一緒に楽しく過ごしましたよ。」

「そ、そうなんだ。あたいたち、桃太郎ごっこして遊んでいた。」
そんな悠理の動揺にも気が付かないらしく、万里子は上目遣いで目をパチパチと瞬いた。
「相変わらず皆様は仲がよろしいですのね。剣菱様、今度は万里子達も誘って下さいね。」
悠理は困惑気味に曖昧な返事を返した。
「うん、考えておく…」
男共なら蹴散らせば済む事だが、万里子や絵里香のような女子はそういう訳にもいかない。
悠理ははぁと大きな溜息を吐いた。

「桃太郎といえば、佐渡の方で本物の鬼が出たそうで、皆様ご存知でした?」
唐突に万里子が口にした話は三人を一瞬で緊張させた。

65 :鬼闇(105):04/12/05 23:00:41
万里子の隣にいた絵里香もその話題に飛びついた。
「私もニュースや雑誌を見て驚きましたわ。佐渡にいる親戚に聞いてみたんですけど、本当らしい
ですのよ。」

最近ようやく下火になったとはいえ、この夏最大のニュースだった鬼来里の出来事は、マスメディ
アを大きく賑わせた。
一度義正から連絡があり、酷い目にあったと言っていた。
あの小さな村に連日のようにTV局や新聞や雑誌の記者が現れ、義正を筆頭にそれぞれの神社
の神主達もTV画面で窺い知ることが出来た。
結局のところ、真実は決して語られることは無かったし、警察も魑魅魍魎の類のこと、そんなこと
が正式発表されるわけもなく、鬼に殺された人々は曖昧なままの事故死ということになった。
それでも、人の口に戸は立てられず、と良く言ったもので、ワイドショーはこぞって鬼の出現を報じ、
霊能者と呼ばれる人達が忙しい毎日を送っていたようだ。
そんな世間を賑わせたこのニュースが、生徒同士が久しぶりに顔を合わせる今日、話題が上るの
は当然のことと言えよう。

「まぁ、鬼ですの?」
野梨子が驚いたように声を上げた。
「ええ。でも、地元の皆様で退治されたそうですが、菊正宗様はどう思われます?」
流石にこの手の話題を悠理に振っても答えが返ってこないと思ったのか、万里子は清四郎へと矛
先を変えた。
「昨今の時代に鬼と言われましても…。信じろという方が無理でしょうね。」
清四郎は腕を組み、真剣に考える振りをする。
「そうですわよね、菊正宗様の言うとおりですわ。」

頷きながら同意する万里子に、絵里香が反論してきた。
「でも、地元の神主さんやら皆様で、鬼の力を封じて退治したと聞きましたわ。」
清四郎はほぅと感嘆の声を上げ、しみじみと語った。
「それは凄い。本物の鬼を退治するなんて、僕にはとても無理ですよ」
二人には気付かない清四郎の含みのある言葉に、野梨子と悠理は隣で静かに微笑んでいた。

66 :鬼闇(106):04/12/05 23:01:39
「あっ、万里子さん、私、先生に早く教室に来るように言われていましたの。」
絵里香が思い出したように腕時計の時間を確認し、万里子へと顔を向けた。
「では、私達、お先に失礼しますわね。」
そう言って足早にかけていく二人を眺めながら、悠理がポソっと呟いた。
「お前ら、役者だよなぁ。」

「それよりも、悠理は夏休みの宿題、全部終わりましたの?」
野梨子の質問に対し、悠理ではなく、清四郎が口を挟んだ。
「僕がみっちり面倒を見ましたからね。」
清四郎の鬼のような家庭教師ぶりを思い出し、悠理は顔をしかめた。
「三日前からずーっとだじょ。昨日なんか夜遅くまでやらされたんだからな。あーあ、眠ぅ。」
ふぁーと悠理は再び大きな欠伸をした。

「まぁ、よく頑張りましたのね。では悠理、手を出して下さいな。頑張ったご褒美ですわ」
野梨子は手提げ袋の中をごそごそとかき回した。
「えっ、何かくれんの?」
悠理の目が喜々として輝き、眠気が一瞬にして吹っ飛ぶ。
「はい、どうぞ。」
野梨子はそう言って悠理の掌に包みを乗せ、少々重量感のあるそれに悠理は首を傾げた。
「何だこれ?」
「何って、ご褒美はきび団子に決まってますでしょ?お猿さん?」
野梨子はにっこりと微笑んだ。
「しつこい!」

ぷぅと頬を膨らませる悠理に、野梨子はクスクス笑いながら話を続けた。
「お弟子さんの一人が実家へ帰られたお土産だって、昨日持って来て下さいましたのよ。岡山でも
有名なお菓子屋さんのもので、お祝い事にも使える珍しい紅白のきび団子ですって。」
「いい加減、猿から離れろよ!それに…」
これだけは言っておかなくてはと、悠理は声を大にした。
「あたしは一つじゃやだってーの!」

67 :鬼闇(107):04/12/05 23:02:57
「おはよー。あら、悠理、何を拗ねてるの?」
プンプンむくれている悠理に声を掛けながら、可憐が近づいてきた。
「おはよー。」
「うっす。お前、朝からなに怒ってんだ?」
その後から美童と魅録が現れ、清四郎が呆れた様子で口を開いた。
「悠理が、きび団子一個じゃ足りないってごねているんですよ。」
「また食いモンのことか。」
「まぁったく。」
「だね。」
呆れたように、魅録、可憐、美童が呟いた。
「大丈夫ですわ、悠理。まだまだ沢山ありましてよ。」
そんな悠理をなだめるかのように、野梨子が箱ごと取り出してみせた。
「ほ、ホントか?」
再び悠理が目を輝かせた。

「ねぇ、野梨子、僕にも分けてよ。あっちで貰い損ねたし。」
野梨子が蓋を開けると、美童の腕がにゅっと伸びて菓子を摘んだ。
「俺、甘い物苦手なんだけどな。」
そう言いながら魅録も手を差し延べ、一つだけ手に取った。
「珍しいぎびだんごですね。僕も頂きます。」
そして、野梨子の隣に立つ清四郎も包みを手に取った。
「あら、清四郎、桃太郎は食べる方ではなく差し上げる方ではありませんの?」
珍しく菓子を手にした清四郎を見上げ、野梨子はクスクス笑った。
「僕だって相応に働きましたから、褒美を貰ったってバチは当りませんよ。」
「あたしにも頂戴。朝ご飯、食べそこなったのよね。授業中に、お腹が鳴ったら恥ずかしいし。」
可憐までもが箱からきび団子を取って行く。
目の前で菓子が次々と消えていく事態に、我慢ならなくなった悠理が大声を張り上げた。
「お前ら、あたいの褒美を横取りするなーっ!!」
悠理の雄叫びと皆の笑いに満ちた、平和な夏の朝だった。

          【終わり】


68 :名無し草:04/12/05 23:04:02
ようやく『鬼闇』を終わらせることが出来ました。
オカルトな上にマニアックな話でしたが、読んでくださった方、スルーして下さった方、
共に有難うございました。
誤字や言い回しなど間違いも多々あったかと思われますが、お許し下さいませ。
又、暖かいレスを頂いた時は、とても励みになりました。
重ねて御礼申し上げます。

69 :名無し草:04/12/05 23:05:52
>鬼闇
リア遭うれしいw
とうとう完結しましたね。お疲れ様でした。
最後は野梨子がきっちりまとめてくれて、なるほど、という感じです。
皆にご褒美を与える役、すごく似合ってます。

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